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領収書で経費を水増し?税務調査で着目される不正とは
1.そもそも経費とは?
⑴ 経費が増えれば税金が減る
税務上の儲けを意味する「(事業)所得」とは、原則として、1年間の事業の総収入金額から必要経費を差し引くことによって計算します。
総収入金額 - 必要経費
所得税や住民税といった税金は、所得が多ければ多いほど多く発生しますから、税金を減らしたいという思惑がある事業者は、所得を減らす=すなわち、
・総収入金額を(意図的に)減らす
・必要経費を(意図的に)増やす
ことを考えます。
言い換えれば、必要経費が増えれば所得が減り、所得が減れば税金が減るのです。
⑵ 必要経費とは
必要経費とはどういうものをいうのでしょう。
所得税は「所得税法」という税法に規定されており、必要経費とはどういうものかについても、この所得税法において規定されています。
(必要経費)
第37条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額(略)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
2 (略)
上記の条文からは、以下の2つが必要経費になることが読み取れます
・売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用
・販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用
⑶ 直接に要した費用
代表的な具体例としては、商品を販売した場合の仕入原価が挙げられます。
商品を仕入れなければそれを販売することはできませんから、商品を販売したことによる売上高からそれを仕入れた価格を差し引いたものが所得になります。
他にも、工事業であれば、その工事に必要だった資材の購入費用やその工事のための外注費用などが該当します。
⑷ その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用
上記(3)のように、直接には売上高とひも付けすることはできないとしても、その1年間の売上高を計上するに当たり必要不可欠であった費用については必要経費として差し引くことができます。
代表的な具体例としては、人件費が挙げられます。
人件費には、給与・賞与の他に、その従業員を雇用するために事業主として負担をしなければならない法定福利費(健康保険料・厚生年金保険料など)や福利厚生費(制服支給・慰労会・健康診断費用など)も該当します。
他には、会社を営むために必要なテナントの家賃なども該当します。
上記の必要経費は、継続的に発生するものですが、他にもその一瞬だけ発生する必要経費があり、それが経費の水増しに利用されて税務署に着目されやすくなります。
2.計上できる領収書の定義を解説
領収書は、主に会計・経理の業界における呼称であり、税法においては「受取書」という用語がこれに該当します。
受取書とはその受領事実を証明するために作成し、その支払った側に交付する証拠証書をいいます。
したがって、「受取書」、「領収証」、「レシート」、「預り書」はもちろんのこと、受取事実を証明するために請求書や納品書などに「代済」、「相済」とか「了」などと記入したものや、お買上票などでその作成の目的が金銭又は有価証券の受取事実を証明するものであるときは、金銭又は有価証券の受取書に該当します。
出典:タックスアンサーNo.7105「金銭又は有価証券の受取書、領収書」|国税庁
要するに、お金を受け取った事実を証明するために、受け取った側から支払った側に交付されるものです。
特に、現金の遣り取りをする場合には、お金に名前は書いていないものですから、本当に支払ったかどうかについては「領収書」の存在が不可欠になります。
3.税務署にチェックされる領収書の項目一覧
しかし、上記の解説によっても、領収書として認められるための形式的な要件については何ら規定されていません。
具体的な「これが記載されていれば領収書といって良いだろう」という要件については、会計・経理実務から経験的に導き出された慣行や証拠能力といった観点から、おおむね以下のような要件が必要とされており、税務署もその記載を確認することになります。
❶ 日付
支払った側からお金を受け取った日付を年月日まで記入してもらいましょう。
❷ 宛名
支払った側である自社の名称(会社名)を可能な限り正式名称で記載してもらいましょう。
小売店舗・飲食店などで、逐一支払った側の名称を言うことが難しい場合もありますので、宛名が記載されない(又は「上様」と記載された)領収書をもらうしかないケースもあり、そういった領収書が税法上直ちに証明力を失うものではありません。
❸ ただし書き
提供された商品やサービスの内容を具体的に記載してもらいましょう。
「○○代として」と記載されることが慣行のようです。
例えば、「飲食代として」「書籍代として」など、支払った側が何を購入した(どんなサービスの提供を受けた)のかが分かる具体的な記述をしてもらいましょう。
❹ 金額
消費税の課税取引であれば消費税(地方消費税)額が加算されており、その加算された金額を実際に支払っているはずですので、その実際に支払った(税込)金額を記載してもらいましょう。手書きの場合には、改ざんの防止のために、数字の頭には「」や「金」、末尾には「-」や「也」といった文字や記号が記載されるのが一般的です。
❺ 収入印紙
受取金額が5万円以上になると印紙税の課税対象となり、領収書(上記でいう「受取書」)にはその金額に見合った収入印紙の貼付が必要となります。
例えば、
・5万円以上100万円以下であれば200円
・100万円超200万円以下であれば400円
などと定められていますので、必要額の収入印紙の貼付があり、それに消印がされていることを確かめましょう。
なお、クレジットカード払いの場合は、そのカードの利用明細は領収書ではないため、収入印紙の貼付は不要です。
❻ 発行者
住所・会社名(店舗名)・所在地・連絡先などが記載されるのが一般的です。
4.注意!不正と判断される領収書の特徴
税務署が「不正ではないか」と疑う領収書は、上記の要件の記載が漏れている又はその記載の信憑性が怪しいものです。
❶ 日付
日付がない又は日付の記載が曖昧なものは注意が必要です。
お金を支払ったタイミングに期間の幅はない(そのタイミングが特定できるはずの)ものであり、お金に名前は書いていないからこそ発行が必要になるものですので、具体的な日付が特定できない領収書はその証拠能力が格段に低下します。
❷ 宛名
前述のとおり「上様」と記載された領収書をもらうしかないケースもありますが、証拠能力を高めたい場合にはできる限り記載してもらうようにしましょう。
例えば、高額でカスタマイズされた商品(サービス)になるほど、宛名がない(又は「上様」の記載である)のは、不自然な印象を与える可能性があります。
❸ ただし書き
必要経費は売上高を得るために必要不可欠な支出であるという税法の要請上、それが必要不可欠であることが窺える具体的な記載が必要になります。
領収書が専門店であれば、具体的な記載がなくても購入品が特定できる場合もありますが、小売店のような幅広い商品を取り扱っている場合には、具体的な記載がなければ必要経費に該当するか否かを証明することにはなりません。
また、自社が消費税の課税事業者である場合には、自社の適正な消費税申告の必要性からも、具体的な商品・サービスの記載が必要になります。
❹ 金額
税務署は、改ざんの余地がある領収書には特に着目します。
例えば、金額部分が白紙で金額を追記したことが窺われるもの、金額部分の桁を加えることが容易なものなどについては、とりわけ慎重に確認するでしょう。
❺ 収入印紙
収入印紙を貼付すべき金額的規模であるにもかかわらず貼付がない領収書について、収入印紙を貼付する責任は領収書を発行した側(相手方)にありますが、そもそもそういった領収書自体の信憑性について、「本当にその物品を購入したのか?」「領収書をこちらで偽造したのではないのか?」といった疑念を税務署に抱かれる可能性があります。
また、収入印紙に相手方の消印がないことも同様の疑念を抱かれることになります。
❻ 発行者
税務署は、その領収書の発行先に対して、「本当にそのような取引があったのか」についての反面調査をすることによって、自社の領収書の信憑性と必要経費算入の妥当性を検証することがあります。
領収書であるにもかかわらず発行者が特定できない又は発行者の連絡先の記載がないということは、それだけでその領収書に対する信頼が低下することになります。
5.領収書の不正はバレる?国税OBの経験談
⑴ 不自然な場所
発行者の所在地が自社の営業エリアとの関係が薄い遠隔地である場合には、事業との関係性に疑問を抱かれる可能性があります。
例えば、東京で事業展開する事業者が、ある一定期間だけ沖縄に所在する店舗が発行した(又は沖縄への往復旅費の)領収書を証拠に必要経費として算入していた場合、実はプライベートの沖縄旅行の費用を必要経費として付け込んでいたというケースがあったそうです。
⑵ レシートの購入
年末や年明けになると、インターネットの中古品販売サイトに大量のレシートの束が出品され、それを購入して自社の必要経費に付け込むケースも見られます。
例えば、営業用車両を保有していない(プライベートの車両をたまに利用しているだけの)事業者が、大量のガソリン代の領収書を証拠に必要経費として算入していても、本当にそれだけの稼働があったのかについて疑問を呈される可能性があります。
⑶ SNSとの不整合
販売促進その他の目的のために、各種SNSのアカウントを開設して運営している事業者が増えています。
しかし、頻繁に更新する内容と必要経費の発生が整合していないケースが散見され、最近は調査官が調査に先立って調査対象者の過去数年分(調査対象年分)のSNSの履歴を確認することによって、多額・異例な領収書の事業関連性を確認するといった事例がみられます。
⑷ 収入印紙のデザイン
収入印紙は定期的にデザインの刷新を図ることで、過去に遡った書類の偽造を抑止しようとしています。
例えば、数年前の必要経費の領収書を、税務調査の連絡があった現時点においてバックデートで作成したとしても、当時から収入印紙のデザインが変更になっていれば、後付けによる作成が明らかになってしまいます。
6.領収書の偽造と認定されるとどんなペナルティがあるか
⑴ 所得税・住民税の本税の増加
その領収書(例えば合計50万円)を証拠としていた必要経費が認められないことになりますので、例えば、その事業者の所得税率が10%(+住民税率10%)であった場合、50万円×(所得税率10%+住民税率10%)=10万円の所得税(住民税)が追徴されることになります。
⑵ 消費税・事業税がある場合
自社が消費税(国税)・事業税(地方税)の課税事業者である場合、消費税において控除していた税額(10%であれば5万円)が否認されるとともに、事業税における所得も50万円増加することになるため、その税率分(5%の業種であれば25,000円)の負担も加わります。
⑶ 重加算税
その領収書の必要経費への付け込みが「仮装」により税の負担を少なくしたと認定され、本税に加えて35%から40%という高率の重加算税が加算される可能性があります。
事業に必要ないものの実在する領収書を勘違いで付け込んだ場合ではなく、自社で意図的に領収書を偽造したような場合には重加算税の賦課は免れないと考えるべきでしょう。
まとめ:領収書による経費の水増しは厳禁!
このように、「領収書1枚で税金を減らせるなら」と事業に関係のない領収書を必要経費とすることや、ましてや自社で領収書を偽造して支払をしたことに仮装する行為は厳禁です。
・自分の周りの事業者でそうしている者がいる
・バレたといった話を聞かない
としても、
・自社に税務調査が来ない
・来たとしてもバレない
という保証はどこにもありません。
税務調査が来ても安心して構えられるためには、日ごろから税理士の関与を受けて税務署に信頼される帳簿をつけて税務調査に備えるとともに、いざ調査官が臨場した場合には横で立ち会ってもらえるような関係を築いておくことが大切です。
ジー・エフ税理士法人では、税務調査時における国税OB税理士による税務署への事前確認、国税当局の視点を取り入れたサポートなどを行っています。
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国税OB税理士
平野 克憲
国税局時代は上場企業をはじめとする大規模法人のうち、特に調査が困難とされる特別調査部門における調査事務を担当。 税務調査現場に臨場して証拠・事実の収集を行う現場調査系の調査官としてもキャリアも積み、企業視点での税務調査対策を熟知する強みを持つ。
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