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相続人が行方不明の場合の対処法は?

ご家族が亡くなって遺産分割協議を行わなければならない、しかし相続人の一部が疎遠で連絡を取れないというようなケースでは、どのように対処すればよいのでしょうか。
連絡を取れない相続人を無視して遺産分割協議を進めてしまうと、後から遺産分割が無効となってしまう可能性があるので注意が必要です。
この記事では、相続人が行方不明の場合の遺産分割における注意点を解説します。
遺産分割協議は相続人全員の参加が必要
民法907条1項では、共同相続人が協議により遺産分割を行うことができる旨を定めています。
この規定は、遺産分割は共同相続人全員で行わなければならないことを意味しています。
そもそも、相続人が複数の場合、相続財産は相続人全員の共有となります(民法898条)。
つまり、行方不明の相続人であっても、相続財産に対する共有持分を有しているのです。
相続財産に対する共有持分は法律上の権利ですので、相続人が行方不明だからといって、何の手続きも取らずに他の相続人が勝手に処分してよいということにはなりません。
仮に行方不明の相続人を参加させずに遺産分割を行い、後から行方不明の相続人が登場した場合には、遺産分割は無効になります。
遺産分割が無効になると、改めて遺産分割をやり直さなければならず、二度手間になってしまううえ、相続税以外にも所得税や贈与税が余分にかかってしまうおそれがあります。
そのため、遺産分割時に行方不明の相続人が存在する場合は、連絡を取って遺産分割協議に参加させるか、そうでなければ法律上の所定の手続きをとって、有効に遺産分割を行うことができる状況を整えることが大切です。
相続人の連絡先がわからない場合の対処法|戸籍の附票
親族とは疎遠な相続人がいるなどの理由から、相続人の連絡先がわからないという場合もあるかもしれません。
その場合には、「戸籍の附票」を調べることにより、行方不明の相続人の現住所を把握することができます。
戸籍の附票には、戸籍が作製されてから現在に至るまでの住所の変遷が記載されていますので、最新の住所宛に郵便を送ってみましょう。
もし連絡を取ることができれば、相続人全員参加での遺産分割協議を行うことができるので、問題はもっともシンプルな形で解決します。
行方不明の相続人がいないまま遺産分割を進めるには?
戸籍の附票を調べて現住所宛に連絡をしてみても、返信がないということもしばしばあります。
たとえば、行方不明の相続人が海外に居住している、役所に住所変更を届け出ていない、そもそも生死不明の状態であるなど、相続人と連絡が取れないことには様々な可能性が考えられます。
いつまで経っても相続人が行方不明のままだと、遺産分割協議を進めることができません。
そこで、相続人が行方不明の状態のまま、遺産分割協議を進めるための方法を解説します。
不在者財産管理人の選任を申し立てる
不在者財産管理人とは、「従来の住所または居所を去った者」の財産を管理する権限を持つ人をいいます(民法25条1項)。
戸籍の附票に記載されている現住所に連絡しても返信がない相続人は、「従来の住所または居所を去った者」として、不在者財産管理人の選任が認められる場合があります。
(参考:「不在者財産管理人選任」(裁判所))
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_05/index.html
不在者財産管理人選任の申立ては、相続に関する利害関係人である他の相続人が行うことができます。
なお、不在者財産管理人はあくまでも、不在者の財産を管理・保存することを職責としており、財産の処分は権限外です。
そのため、行方不明の相続人に代わって、不在者財産管理人を遺産分割協議に参加させる場合には、家庭裁判所による「権限外行為許可」を得る必要があります(民法28条)。
失踪宣告を申し立てる
失踪宣告とは、長期間生死不明の状態が継続している人について、実際の生死にかかわらず、法的には本人が死亡したものとみなす制度をいいます(民法30条1項)。
(参考:「失踪宣告」(裁判所))
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_06/index.html
不在者の生死が7年間以上明らかでない場合、他の相続人などの利害関係人の申立てにより、家庭裁判所は失踪宣告を行います。
失踪宣告により、行方不明の相続人は死亡したものとみなされるので、法的には相続権を失い、他の相続人だけで遺産分割を行うことができるようになります。
失踪宣告のデメリット
ただし、行方不明の相続人について失踪宣告を申し立てる場合には、以下のデメリットがあることに注意が必要です。
そのため現実的には、不在者財産管理人を選任する方法を選択する方がよい場合が多いでしょう。
手続きに時間がかかるので相続税申告の期限に間に合わない
失踪宣告の申立てが行われた場合、不在者が生存していないかを確認するため、家庭裁判所調査官による調査が行われます。
さらに、官報や裁判所の掲示板において、不在者に対して生存を届け出るように催告する手続きも実施されます。
上記の各手続きには、場合によっては1年以上の期間がかかってしまいます。
一方で、相続税申告の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内とされています。
相続税申告の期限を過ぎてしまった場合、各種特例が利用できなくなるなどのデメリットが生じますが、失踪宣告を待っていたのでは、相続税申告の期限に間に合いません。
失踪者が生存していた場合は遺産分割がやり直しになる
さらに、失踪宣告の時点で失踪者が生きていたことが後から判明し、失踪者本人または利害関係人がそのことを証明した場合には、失踪宣告の取消しが行われます(民法32条1項)。
失踪宣告が取り消された場合には、遺産分割協議がやり直しになってしまいます。
ただし、遺産分割によって得た財産を他の相続人がすでに処分している場合には、現存利益の限度で財産を返還することで足りるとされています(同条2項)。
まとめ
遺産分割協議を行う際には、事前に行方不明の相続人がいないかを確認したうえで、戸籍の附票から現住所を調べて連絡を取るなり、不在者財産管理人選任の申立てを行うなりして、有効に遺産分割を行える状況を整えることが大切です。
行方不明の相続人を無視して遺産分割協議を進めてしまうと、後から遺産分割が無効とされてしまう可能性があるので注意しましょう。
もし行方不明の相続人がいる場合や相続全般のご相談事がありましたらコチラまでお気軽にご相談ください。

統括代表パートナー税理士
勝又 義雅
山田&パートナーズ時代には相続・事業承継をメインとした資産税業務に従事し、上場企業のMBOアドバイザーなど難易度の高い資産税実務を経験。 現在は法人税務を中心として幅広い業務を行っており、税務スキームの検討及び構築・組織再編・グループ法人に関わる税務・富裕層に関連する税務業務やM&A関連業務などを得意分野に持つ。
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