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種類株式を用いた事業承継を税理士が解説

事業承継
種類株式を用いた事業承継を税理士が解説

同族企業において事業承継を行う際には、オーナーから後継者に対して株式を引き継ぐ必要があります。

しかし、後継者以外にもオーナーについての相続権を有する家族(推定相続人)がいる場合には、後継者と他の推定相続人の間での利害調整が必要になります。

このような場合には、「種類株式」を活用することによって円滑に事業承継を進めることが可能です。

この記事では、種類株式を用いた事業承継について、税理士が専門的な観点から解説します。

 

種類株式とは?

まずは、そもそも種類株式とは何かについて、会社法の規定を踏まえて解説します。

会社法上、株主は保有株式数に応じて平等に取り扱われるという「株主平等原則」が基本とされています(会社法109条1項)。

しかし会社法は、株主平等原則の例外として、定款で所定の事項を定めることにより、内容の異なる2種類以上の株式を発行することができるとしています(会社法108条1項)。
これを「種類株式」といいます。

たとえば、会社がA種類株式とB種類株式という2種類の株式を発行している場合、

  • 「A種類株式を保有する株主同士」
  • 「B種類株式を保有する株主同士」

であれば、それぞれ保有株式数に応じて平等な権利を有します。

しかし、

  • 「A種類株式を保有する株主とB種類株式を保有する株主」

では、そもそも有している権利の内容が全く違うということが許容されるのです。

 

なぜ事業承継に種類株式が役立つのか?

オーナーを相続する予定の人(=推定相続人)が複数存在し、そのうちの一人を後継者として指名する場合、オーナーが持っている株式を100%後継者に与えれば済むようにも思われます。

しかし、後継者に100%の株式を与えてしまうと、相続との関係で不都合が生じるおそれがあります。
その不都合を回避するために、他の推定相続人にも一定割合の株式を与えておきたいというニーズが存在するのです。

とはいえ、株式を他の推定相続人にも与えることで、経営権が分散することは避けたい。
そこで用いられるのが「種類株式」というわけです。

以下でもう少し詳しく解説しましょう。

後継者に100%株式を与えると、遺留分問題が生じる

そもそも、高価な株式を後継者だけが譲り受けてしまうことになると、他の推定相続人から不満が出る可能性が高いでしょう。

また法的にも、オーナーの推定相続人(兄弟姉妹を除く)には、オーナーの相続に関して「遺留分」という権利が認められる点に注意が必要です。

遺留分は、「一定金額の相続財産を最低限相続できる権利」のことです。
遺留分よりも少ない遺産しか相続できなかった相続人は、遺産を余分に相続した相続人に対して、不足額の支払いを請求することができます(民法1046条1項、遺留分侵害額請求)。

ここで、

「相続ではなく、生前贈与でオーナーから後継者に株式を移転するのだから、遺留分は関係ないのでは?」

という疑問が湧くかもしれませんが、ここが大きな落とし穴です。
実は、遺留分を計算する際には、相続人に対して生前贈与された財産を、相続開始から10年分遡って、相続財産に組み戻して計算を行うものとされています(民法1044条1項、3項)。

そのため、オーナーから後継者へ株式を生前贈与した時から10年以内にオーナーが亡くなってしまうと、生前贈与した株式が丸ごと遺留分計算の基礎とされてしまいます。
その結果、後継者は他の推定相続人から、多額の遺留分侵害額請求を受けてしまうことになりかねません。

このような事情から、後継者に株式を100%与えるのではなく、他の推定相続人にもある程度の株式を与えておこうという考えが働くというわけです。

経営権は分散させたくない

とはいえ、他の推定相続人に株式を与えた場合、後継者が会社の経営をコントロールできなくなってしまうのではないかという懸念が生じます。

議決権付きの株式を保有する株主は、株主総会での投票権を持っています。

株主総会では、会社に関する重要事項を決定したり、取締役をはじめとする役員を選任したりします。
これらの意思決定に、後継者以外に推定相続人が関与してくるとなると、後継者の意思に反した会社経営が行われてしまう可能性が否めません。

そこで、

「後継者が保有する株式と、他の推定相続人が保有する株式の議決権の内容に差をつける」

ことにより、経営権の分散を防ごうというのが、種類株式を事業承継に用いる目的になります。

 

事業承継に役立つ種類株式とは?

事業承継に役立つのは、「議決権の内容に差をつける」種類株式です。
具体的にどのようなものがあるのかを見ていきましょう。

議決権制限株式

議決権制限株式は、株主総会での議決権行使が認められない種類株式です。

議決権制限株式は、会社に関する意思決定に関与することなく、もっぱら配当やキャピタルゲインなどの経済的利益だけを享受することになります。

後継者の株式を議決権付株式、それ以外の推定相続人の株式を議決権制限株式としておけば、後継者が100%会社の意思決定を支配できるため、会社経営が安定します。

拒否権付株式

拒否権付株式は、株主総会で決定する一定の事項について、その株式を持っている株主の同意が決議の要件となる種類株式です。

簡単に言えば、拒否権付株式を保有する株主がNoと言えば、株主総会がその事項を決議することは一切できなくなります。
このように、拒否権付株式は非常に強力な権限を与えられていることから、「黄金株」と呼ばれることもあります。

後継者の株式を拒否権付株式(黄金株)、それ以外の推定相続人の株式を普通株式としておけば、会社の重要事項に関する意思決定を後継者が100%支配することができます。

 

種類株式を用いた事業承継は税理士に相談を

このように種類株式を用いることによって、他の推定相続人の不満や相続における遺留分問題を回避しながら円滑に事業承継を行うことができる場合があります。

種類株式を新しく導入しようとする場合は、定款変更や、普通株式から種類株式への変更の手続きなどを、会社法の規定に則って行うことが必要です。

種類株式を用いた事業承継を行うことを検討している会社オーナーの方は、専門家である税理士に一度ご相談ください。

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監修者

統括代表パートナー税理士

勝又 義雅

山田&パートナーズ時代には相続・事業承継をメインとした資産税業務に従事し、上場企業のMBOアドバイザーなど難易度の高い資産税実務を経験。 現在は法人税務を中心として幅広い業務を行っており、税務スキームの検討及び構築・組織再編・グループ法人に関わる税務・富裕層に関連する税務業務やM&A関連業務などを得意分野に持つ。

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