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2021.08.29

税理士法人・公認会計士事務所等を「売却・譲渡対象」としたときのM&Aの流れ・具体的な進め方は

M&A
税理士法人・公認会計士事務所・税理士事務所同士がM&A等の手法で会計事務所を売却・譲渡したとき、その流れはどのようなものになるでしょうか? またどんな仲介者(M&Aアドバイザー)を選べば取引を成功に結びつけることができるでしょうか?

この記事では、税理士法人・公認会計士事務所・税理士事務所を売却・譲渡する際の取引の流れや、誰をM&Aアドバイザーに選ぶか、事前に用意しておけばよい書類など、について詳しく解説します。

売り手側(譲渡側)、買い手側(譲受側)の税理士法人・税理士事務所・公認会計士事務所、双方にとって大切なポイント

売り手、買い手の税理士法人・公認会計士事務所等がM&Aや事業承継・事業譲渡を行なうにあたり、双方が意識して押さえておかねばならない大切なポイントは4つあります。

それは以下の4つです。

1 M&A相場の把握

2 適切なM&Aアドバイザーの選択

3 スキーム選択

4 税金対策への配慮

以下さらに詳しく説明します。

1 M&A相場の把握

一般的なM&A取引同様、税理士法人・公認会計士事務所等を売却・譲渡対象として売買する場合も士業業界のM&A相場を双方が把握しておくことはとても大事です。

M&A相場を把握しておかないと、交渉にあたり、極端に高くあるいは低く双方が売買しようとして両者の思惑が一致する可能性が低くなります。

そのためにも双方が相場を把握した上で現実的な交渉を図る必要があるのです。

その際、M&A相場の決定要因として、会計事務所が位置する地域、事業規模、M&A実施タイミング等によっても相場は異なりますが、一般的にはその会計事務所の「1年間の顧問収入」あるいは「営業利益の3年分」をベースに、売上高も加味して売却・譲渡額が決まってきます。

通常のM&A取引同様、「時価純資産方式」や「DCF方式(割引キャッシュ・フロー法)」という計算方法で相場が算出されることになります。

2 適切なM&Aアドバイザーの選択

M&Aの検討実施にあたっては適切なM&Aアドバイザーを選ぶことも取引成功への大切な要素です。

適切なM&Aアドバイザーを選ぶことは成功確率を上げるだけなく、結果としてM&Aに係る取引ロスを少なくしてコストを減らすことにもつながります。

M&Aアドバイザーのなり手としては、銀行、証券会社、M&A仲介会社、M&Aアドバイザリー(FA)等もありますが、もちろん今回の取引主体である税理士法人・公認会計士事務所自身も専門家としてM&Aアドバイザーになれます。

同業者ゆえ、取引相手双方の細かい点まで目を配ることができるので、税理士法人・公認会計士事務所をM&Aアドバイザーとすることも適切な選択肢のひとつです。

3 スキーム選択

M&Aの検討に際しては自社に適したスキームを選ぶことも大切です。

M&A取引の当事者である税理士法人・公認会計士事務所等もさまざまな事業規模・組織構造があるので、売り手・買い手双方のスキームに関する考え方が一致すれば、取引成立の確率が上がります。

一般的にM&Aの取引スキームには3つのタイプあります。

【買収】買い手が売り手の経営権を買い取ったり事業を譲り受けたりするスキーム、手法として株式譲渡・事業譲渡がある
【合併】複数の会社や組織をひとつにまとめるスキーム
【分割】会社や組織が持つ事業の一部を切り離し、その権利や義務とともにあらたに起こす会社や組織、後継者に承継するスキーム

税理士法人・公認会計士事務所等も自社が希望する取引スキームをM&Aアドバイザーに示して適切な取引相手を探してもらうことになります。

4 税金対策への配慮

M&A取引では税金対策への配慮も欠かせません。

たとえば税理士法人を事業譲渡するとき、売り手の法人にはその譲渡の売却益に対して法人税がかかります。

これが税理士事務所のように売却対象が個人所有の事務所だと、売却した個人に入る利益は所得税の対象となり、さらに高い税金がかかってきます。

また譲渡する資産の内容によって消費税もかかります。

取引当事者としてできるだけ税金がかかないよう事前に対策を講じておけば、手元に残るお金も多くでき、将来の生活費や新たな事業への投資資金にも回せます。

まして会計事務所は税金のプロなのでさらにその配慮が必要なのです。

M&Aを行う場合の流れ

税理士法人・公認会計士事務所等が一般的M&Aを通じて法人・個人事務所を売却・譲渡する際の流れについて解説します。

▪STEP1 事前準備及びM&Aアドバイザーの選定

まずこの段階では、自分が会計事務所を売却する目的を明確化するとともに、M&Aの仲介業務を任せられる専門家を選びます。

そして仲介業者が決まったら、アドバイザーの意見も踏まえて、自分の事務所の譲渡価額がおおよそいくらになるのか相談します。
と同時に事務所の重要情報も相手に渡すことになるので、仲介業者と「仲介業務の契約締結」「秘密保持契約」を結びます。
契約が結べたら、次のステップとして会計士事務所を譲渡する相手を仲介業者に探してもらいます。

▪STEP2 ターゲット選定

仲介業者は自社が集めた多くの買取り希望情報、同業者間の情報ネットワークを通じて売り手の希望に合った相手を探してきます。

そして複数にターゲットを絞り込み、売り手に名簿を示してその中から売り手が興味を持ちそうな相手を選定します。
(もちろんこの段階では双方に対して相手が分かるような情報を仲介業者は出さず、最低限の情報だけ示すあくまでノンネームベースでの選定になります)

▪STEP3 買い手との初回交渉

買い手候補が絞り込まれたら、仲介業者は売り手と買い手、双方の代表者の初回面談の場を設けます。

その場では、売り手買い手とも、交渉相手がどのような人物なのか、売却(買収)についてどんな考え方なのか、経営理念や今後の事業展開についてどう考えているのかなど、多面的に相互の考え方を確認します。

またあわせて、売り手は買い手に対して希望の譲渡価額や今後のM&Aスケジュール等も提示します。

▪STEP4 基本合意書の締結

条件のすりあわせが完了し、双方のM&Aに対する認識が一致したら、基本合意書を締結します。

基本合意書とは、あくまで取引当事者双方の認識が一致していることを書面締結で確認するもので、まだ法的拘束力のある書面ではありません。

しかし書面を交わすことで、双方のM&Aに対する意思が強まり、より積極的に次のステップに進めるのです。

▪STEP5 デューデリジェンスの実施

基本合意書の締結が済めば次はデューデリジェンスを実施します。

デューデリジェンスとは、買収監査・資産査定とも呼ばれ、買い手が売り手の法人・事務所に各部門の専門スタッフを派遣、売却相手の帳簿等を確認して、書面だけの交渉では把握できていない会計事務所の真の状況を把握する手続きをいいます。

財務、法務、人事、事業など、それぞれの分野の専門家がデューデリジェンスを行ないます。

そして得られた結果を仲介業者及び買い手に報告するのです。

▪STEP6 売却・譲渡価額の交渉及び決定

デューデリジェンスが終わると買い手はその結果を買収希望価額に反映させて売り手に提示します。

そして何度か交渉を重ねて双方が条件の合意に至ると、最終の譲渡価額が決まり次のステップに進みます。

▪STEP7 譲渡契約の締結及び譲渡代金の決済、資産の移転

M&Aの最終プロセスは譲渡契約書の締結(クロージング)です。

そしていったん譲渡契約書が締結されると法的拘束力も持つようになるので、双方とも後から勝手に契約内容を変えたりすることができなくなります。

そのため再度隅々まで契約内容を確認して落ち度がないことを確認して下さい。

また契約書の締結とともに譲渡相手(買い手)から譲受け対価の支払が行なわれます。

一方売り手は譲渡代金の受入れを確認したら事業資産の移転をします。

そして全ての手続きが終われば、ここではじめて完全な「会計事務所の譲渡」が行なわれたことになります。

▪STEP8 PMIの実施

譲渡手続きが終わってもじつは真の意味でM&Aが完了したことにはなりません。

M&A成立後にはPMIの手続きが残っています。

PMIとは(Post Merger Integration)の略語で、具体的には「M&A成立後の総合効果の極大化」を意味し、買い手の事業をより発展させるため、事業や人の融合を通じて組織のより高次元の統合化を図っていく一連の手続きをいいます。

PMIの手続きを通じてM&Aで期待されていた効果が「成功か、失敗か」よりはっきりするので、M&Aを最終的に成功に導くためにも統合化のプロセスは欠かせないのです。

事業承継、事業譲渡での流れ

M&Aの手法では、一般的に会社間で、あるいは会社個人間で、会社または事業の売却・譲渡がなされますが、その場合、売却・譲渡の対価決済によく利用されるのが株式の売買です。

しかし税理士法人・公認会計士事務所のような会計事務所の場合、事業承継・事業譲渡は対価の決済が株式でなく、金銭の授受でなされるのが一般的です。

特に税理士事務所はいまだ圧倒的に個人経営の先が多く、士業間で会計事務所の売却や譲渡が行なわれるとき、資金決済は「金銭授受」が合理的な方法ですし、売り手の多くが個人経営の会計事務所で譲渡後に法人化を希望している実態からも、主たる買い手の税理士法人も金銭で決済した方が一連の手続きは簡単に済みます。

またこれは士業事務所間の事業譲渡のようなケースでなく、仲介業者が若くて優秀な税理士先生を見つけてその事務所の後継者として他所から移籍してもらう「事業承継」方式ならさらに簡単な金銭授受で収まりがつきます。

いずれにしても税理士法人・公認会計士事務所のような士業間の事業譲渡のケースでも、取引の流れが前章で解説したM&Aの流れと大きくそれるものではありません。

あえて言えば、大きな違いは資金決済の方法が、会社の株式の売買や交換でなされるか、金銭授受でなされるか、だけの差なのです。

税理士法人・公認会計士事務所・税理士事務所同士がM&Aまたは事業承継・事業譲渡を行なう場合、どんな仲介者(M&Aアドバイザー)を選ぶのが適切か?

本記事の最初の章「取引で双方にとって大切なポイント②」でも解説したように、「適切なM&Aアドバイザーの選択」は結果を左右するだけにとても重要なポイントです。

仲介業者を間違って選べば、M&Aや事業譲渡・事業承継が失敗に終わるだけでなく、余計なコストを払うとか、社員間に不要な混乱を生じさせるだけの結果に終わります。

それだけに自分に合った適切な仲介者を慎重に選ぶ必要があるのです。

税理士法人・公認会計士事務所同士がM&Aまたは事業承継・事業譲渡を行なう際、M&Aを行なう主体がM&Aアドバイザーを選ぶタイプには3つあります。

➀銀行、証券会社、M&A仲介会社、M&Aアドバイザリー(FA)

➁税理士法人・公認会計士事務所をM&Aアドバイザー

➂個別で募集している会計士事務所、税理士法人、税理士事務所

もちろんそれぞれ仲介者のタイプによってM&Aの進め方に若干の違いはあります。

しかしたとえ3番目の「➂個別で募集している会計士事務所、税理士法人、税理士事務所」をM&Aアドバイザーとして選んだ場合でも、M&Aの流れは基本的にこれまで解説したような流れになります。

一方で、税理士法人・公認会計士事務所をM&Aアドバイザーとして選んでおけば、仲介者が業界に熟知しているだけに、相手に応じて臨機応変に色々な手法が使え成功の確率も上がってくるのです。

事前に準備しておくと、話が進みやすい書類

税理士法人・公認会計士事務所等がM&Aあるいは事業承継・事業譲渡を行なう際、売り手として、仲介業者・買い手に対して事前に準備しておくと話が進みやすい書類をまとめてみました。

あくまで基本的な書類ですが参考にして下さい。
(実際、手続きの着手段階ではさらに多くの書類が必要となります)

■法人・事務所概要
・法人・事務所の会社案内(履歴書)
・定款
・HPアドレス
・所属税理士・公認会計士等の数・経歴等
・事務所スタッフ一覧
・顧客名簿(顧問先、取引先)

■財務関連書類
・直近3期分決算書(含む科目明細内訳書)
・税務関連書類
・固定資産台帳
・給与台帳

まとめ:売り手側(譲渡側)、買い手側(譲受側)、双方の税理士法人・税理士事務所・公認会計士事務所のリスクを回避するために

最後に売り手側、買い手側、双方の会計法人・事務所がM&Aに係るリスクをできるだけ回避するためには何をしたらいいかをまとめます。

ひとつめはM&Aの検討は早ければ早いほど良いということです。

とりわけ売り手側の所長先生がまだまだ現役バリバリのときのほうが動きやすいし、仕事に対して油も乗りきっている状態なので、売り手に事務所を譲渡しても後から譲渡先で一税理士として働いたり、一定期間税理士として勤務した後、引退もできたりします。

要するにM&Aを考えているのなら一日も早く動くことで、譲渡で使える選択肢が増えるわけです。

さらにその状態をアピールすることで譲渡価格をより高くできたり、得た売却代金で別の事業も興せたりします。(ただし競業忌避義務があるので、同じ士業を行なうことはできません)

ふたつめとして、売り手が事業承継・事業譲渡を考えるときには、仲介業者を金融機関・仲介アドバイザリー(FA)等でなく、同業者でM&A業務を行なっている税理士法人・公認会計士事務所等に相談するのもリスクを下げる方法です。

そのほうが一般的なM&Aでなく、同業者間の事業承継や事業譲渡の形を取れるので、最終的にコストも安くでき、可能性として売り手側の実収も多くできるでしょう。

何より仲介者が業界事情に熟知しているので、売り手買い手とも安心して相談でき、さらに所長先生の希望(社員税理士でそのまま残る、引退してゆっくりするなど)もかなえやすいと考えます。

当税理士法人では「税理士法人・会計事務所の事業譲渡・合併による承継」を積極的に行っております。
税理士法人・会計事務所の売却・M&Aを検討されている先生方がいらっしゃいましたら、当税理士法人までお気軽にお問い合わせ下さい。

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