コラム

会社のムダは省ける?知ってる経営者だけが得をする正しい節税知識

2025.04.18
  • 節税対策
目次

この記事の監修者

勝又 義雅

統括代表パートナー税理士

税理士法人山田&パートナーズ、野村證券株式会社 法人開発部出向、株式会社ネオラインホールディングス 財務経理部

会社のムダは省ける?知ってる経営者だけが得をする正しい節税知識

「会社の経費が増えて、社会保険料・税金の支払いに苦慮している」

会社の資金繰り悪化に陥るよくあるケースですが、会社の資金繰りに苦労している場合は、正しい節約の知識を活用していない可能性があります。

例えば、給与の金額が29万円と289,999円の場合における給与の差は1円ですが、社会保険料は約3,000円の差が出ます。10名の従業員を雇っているとすれば、その差は月間3万円、年間36万円です。

普通に考えれば基本給は切りよく計算したいと思いますが、たった1円変えるだけで年間36万円の支払いが節約できると考えると、会社・従業員共に負担感が大きく違ってきます。

本記事では、知っている人だけが得をする正しく税金・社会保険料を減らす知識を解説します。

 

税金・社会保険の仕組み

はじめに、会社と経営者にかかる税金と社会保険の仕組みを理解しておきましょう。

税金・社会保険料の支払額

会社と経営者へ定期的にかかる税金と社会保険料は、以下の内訳が基本です。

法人

法人税 ・年間利益800万円以下:法人税約15%+地方法人税約10%=約25%
・年間利益800万円超:法人税約25%+地方法人税約10%=約35%
消費税 約10%
社会保険料 ・支払った給与(標準月額報酬)に対して30%
 ⇒従業員負担15%、会社負担15%の折半
  ※加入する健康保険組合により前後あり
経営者 所得税 1年間の収入に対して最大約55%
社会保険料 給与に対して15%

それ以外にも、会社を運営する上で支払う可能性のある税金として、「固定資産税(償却資産税)」「地法人事業税や法人住民税などの地方税」などがあり、利益の有無に関わらず毎年さまざまな税金・社会保険料が発生します。

なかでも、社会保険料は年収400万円の従業員1人あたり従業員負担分を含めて年間約120万円、従業員が10名いると1,200万円の支払いが発生します。

大きな負担となるため、少しでも税金・社会保険料を減らすコツを知っておきましょう。

社会保険の加入と保険料の決め方

社会保険は、従業員数51名以上の企業において以下の要件を満たす従業員が加入します。

・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金が88,000円以上
・2ヶ月を超える雇用の見込みがある
・学生ではない

社会保険料は、基本的には4~6月に支払うすべての賃金を元に同年8月から1年間の社会保険料を決定します。

なお、社会保険に加入できる要件の1つである従業員数は、元々101名以上だったところ、2024年10月から51名以上へ引き下げがされています。

今後も社会保険の加入者を増やすために要件が改悪される恐れがあるため、社会保険料の負担が増えることを想定しておくべきでしょう。

 

税金・社会保険料を減らすコツ

税金・社会保険料を抑えることで、会社で使えるお金が増えます。

6項目を具体例として、順に解説します。

①旅費規定の制定

旅費規程とは、宿泊の有無にかかわらず法人を対象とした出張に関する規定です。

旅費規程を明確に制定することで、節税へつながります。

例として、大阪へ1泊2日の出張をしたケースで見てみましょう。

実際の従業員精算額 旅費規定に基づいた従業員精算額
パッケージツアーで25,000円を経費精算
(飛行機代往復+ホテル代)
合計105,000円
 ・往復交通費;35,000円×往復=70,000円
 ・出張日当:10,000円×2日=20,000円
 ・宿泊費15,000円

このように、差額は8万円にも及びます。

会社の事務担当者から見ると、飛行機代・宿泊代を調べるのは非常に手間です。

旅費規程を制定すれば、事務担当者における事務作業の簡素化、旅費規定に基づいた経費計上による利益圧縮(=節税)、従業員は支払った以上の旅費が受け取れるといったメリットがあります。

さらに、旅費交通費は仕事の経費とみなされるため原則として従業員に対する所得税は非課税ですので、受け取った交通費はすべて従業員のものとなります。

但し、全額非課税の旅費を支給するためには、旅費規程策定において以下の点は留意が必要です。

・全従業員が対象(役職による上限の設定やグリーン車などの有料席使用の容認可)
・支給額は同業同規模の会社と同等

一般的な出張旅費は、交通費・出張手当(日当)・宿泊費です。

出張手当(日当)については宿泊か否かは問わないため、取引先へ外出した場合の手当を規定しておけば非課税の手当を受け取れます。

社会通念上の範囲でそれぞれに定額で細かく設定しておくことで、会社・従業員ともに節税が可能です。

②社宅制度の創設

社宅は、会社の名義で賃貸契約や物件購入して役員や従業員が住む制度です。

社宅制度を設けることで、所得税・社会保険料の負担を減らせます。

月収50万円、家賃8万円の物件に住む従業員へ社宅制度を活用した例で見ていきましょう。

  社宅制度なし 社宅制度あり
月給 50万円 50万円
社宅(月給を直接減額) 0円 ▲7万円
社会保険料 約15% ▲7.5万円 ▲6.5万円
所得税 約10% ▲4.3万円 ▲3.7万円
手取り額 38.2万円 32.8万円
住居費 8万円 1万円(天引き控除)
家賃支払い後実質手取り 30.2万円 31.8万円

通常は、自分で賃貸物件を借りて手取り給与から家賃を支払いますが、社宅制度を利用すれば、会社が負担する社宅の家賃分を引き下げた月給の設定が可能です。

上表の通り従業員の実質手取りが増えるだけでなく、月給が下がると社会保険料・所得税の負担も減り、結果的に会社からの支出を抑えられます。

但し、社宅制度創設にあたっては、以下の点に注意しなければなりません。

・従業員負担割合は、固定資産税の評価額により変わる
・全額会社負担にすると、給与とみなされ社会保険料・所得税がかかる
・従業員から徴収する家賃は、雑収入として法人税の課税対象となる(消費税は非課税)
 *基本給減額+天引きにより実質±0

従業員負担分を少なく設定し、基本給を調節することが節約のポイントです。

③退職金制度の活用

退職金は、所得税で大きな優遇が受けられる制度です。

勤続年数10年の従業員が3,000万円を給与と退職金で受け取った場合を例に見てみましょう。

退職金で受け取り
給与で受け取り
退職金(①) 30,000,000円 給与 30,000,000円 
退職所得控除(➁) ▲4,000,000円  給与所得控除 ▲1.950.000円 
退職所得(③)
(➀-➁×1/2)
13,000,000円  給与所得(①) 28,050,000円 
社会保険料  社会保険料 ▲1,654,000円 
所得税
(➂×33%-1,536,000円)
▲2,754,000円  所得税
(①×40%-2,796,000円) 
▲8,424,000円 
 住民税
(➂×約10%)
 ▲1,300,000円  住民税
(①×約10%) 
▲2,805,000円 
 税額合計 ▲4,054,000円   社保・税額合計 ▲12,883,000円 
 手取り額 25,946,000円   手取り額 17,117,000円 
8,829,000円の差

このように、同じ3,000万円でも支給方法が違うだけで大きな差があります。

退職金と給与で差が出るのは、3つの違いがあるためです。

・退職所得控除は勤続年数で算出し、給与所得控除は給与金額に対して計算
・退職所得は、計算上所得控除を差し引いたあとに1/2するため
・税率と控除額の違い

退職所得の計算方法は、勤続年数や支給金額により変わります。

そこで、2つ以上の会社を持つ場合は2つの会社から退職金を受け取るなど、受け取り方も変えるとより多くの節税が可能です。

④給与支給項目の調節

給与のなかでも基本給・住宅手当など、社会保険料の算定対象となる項目があります。

一方で、出張旅費・会社が負担する生命保険の掛金などは社会保険料の算定対象外です。

そこで、経営者の給与の中から「会社が負担する生命保険の掛金を引いた金額」を基本給に設定すれば、社会保険料の負担額を減らせます。

月給50万円の経営者を例に見ていきましょう。

月給 500,000円 62,000円
保険手当 0円 438,000円
社会保険料 約15% ▲75,000円 ▲9,300円

月給と保険料を受け取るとどちらも50万円です。

しかし、社会保険料へ算定する項目に保険手当がないため、月給に対して社会保険料を計算します。

社会保険料を約15%と換算すると差は6万円以上です。

社会保険料は、従業員からの天引き額と同額を会社が負担するため、同額の経費が抑えられます。

⑤事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、取締役・監査役などの役員に対して特定の時期にあらかじめ決まった賞与(=役員賞与)を支給する場合に活用できる制度です。

通常役員に対しては毎月決まった金額の役員報酬のみが損金算入となり、役員賞与は損金不算入の項目ですが、事前に管轄税務署へ必要書類を届け出れば全額損金として認められます。

事前確定届出給与には、要件があります。

・書面の提出期限は、株主総会決議日から1ヶ月・会計期間の開始から4ヶ月いずれか早い方
・株主総会での決議を諮る
・「いつ」「誰に」「いくら」払うかを書面へ記載する
・銀行休業日にかかわらず、申請した日に支払う
・書面の記載内容と支給額が1円・支給日が1日でも違いがあれば否認
・支給の実態がなければ否認

事前確定届出給与は、銀行休業日にかかわらず1日でも1円でも書面と違う支給をすれば損金算入ができず、所得税の観点では支給の実態がなかった場合も含めてこのような場合でも支給されたものとみなされて所得税が課税されるリスクが発生するため、確実に記載内容を遂行することが重要になります。

非常に縛りが強い制度ではあるものの、財源の確保ができれば全額損金になる有益な制度であり、役員のモチベーション向上にも繋がります。

⑥昇給タイミング・交通費の支給月を工夫

社会保険料の金額は4~6月に支払うすべての給与を元に算定するのが原則です。

定時昇給に当たっては年度初めとなる4月に設定されがちですが、かえって従業員の負担増に繋がってしまいます。

そこで、月給が変わる可能性がある項目を7月以降に変えることで、社会保険料を抑えられます。

月給が変わる可能性がある項目と、社会保険料を削減するアイデアの例は以下のとおりです。

・通勤手当:1年分の交通費を7月に支給
・昇給:基本給の引き上げを9月に支給
・残業代:3~5月の残業を特に減らす
・賞与:少額の賞与を支給する際は、「特別手当」など給与に含めて7月以降に支給

ただし、3ヶ月連続で固定的賃金が2等級以上変動する場合は、社会保険料の再計算が必要です。(随時改定)

交通費や昇給の月を工夫する場合は、固定的賃金に該当するか否かを検討してから工夫しましょう。

 

まとめ

税金・社会保険料を節約する知識について、会社・経営者個人の両方から解説しました。

旅費・社宅・退職金など、法律に沿って規定を制定するだけで、大きな節約が実現可能です。

給与の支給金額や、支給項目を見直すと、社会保険料が節約できます。税金・社会保険料の節約を組み合わせてシミュレーションすると、年間100万円以上の節約も可能です。

しかし、今回解説した知識は正しく活用しなければ節約はできません。

解釈を誤り、法律違反となれば費用が増える恐れもありますので、財務・税務のプロである税理士と相談しながら進めていくのがおすすめです。

 

ジー・エフ税理士法人のメンバー

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